歌舞伎町で働いた時の話

大学4年の時に新宿歌舞伎町でバグースというビリヤード・ダーツの店で半年ほどアルバイトをしたことがあった。店長が小太りの元ヤンみたいな人でバイトに対して暴言を吐いたり上から目線での叱咤をするので、死ぬほど嫌わていた。

 

自分は学生自体に雀荘ドン・キホーテ・コンビニ・軽作業など色々やっていたがどれもあまり長く続かなかった。唯一雀荘だけが一年ぐらい続いた。

アルバイトは時給制だが、時給制となると残り時間はあとどれぐらいか、ということに気を取られてその結果いかにサボるか、みたいな思考になってしまい、そんな奴が使える訳は無いのでどのバイトも長くは続かなかった。雀荘は単純に麻雀が好きだから続いたのだろう。

 

そんな訳でバグースでのバイトも長く続くわけはなく、イギリスに留学するまでの凌ぎとしてとても軽い気持ちで始めたものだった。

バイトの面接の時に軽い自己紹介をしたのだが、なぜか話の流れで自分はコミュニケーションに自信がある陽キャです!みたいなことを言ってしまい、引っ込みがつかず陽キャとしてアルバイトデビューをすることとなる。地獄だ。

 

店長がそんな感じなので店の雰囲気は最悪で物凄いギスギスしていたのだが、店長に冗談を言ってみたりインカムでふざけていたりしたら、なぜか店長に気に入られて仕事終わりに一緒にビリヤードをやったりする中になった。

仕事以外での店長はいい奴で話も面白かった。いわゆる不器用なタイプでちゃんと仲良くなれば面白いし地元の友達が多いタイプ。店長ということで威厳を見せようとするうちに残念なことになってしまったようだ。

ビリヤードの腕前もすさまじく、ナインボールをやって自分が一回も打たずに負けたのは初めてだった。友達とのプレイで調子に乗っていたおれのプライドは0になりそれ以降バイト先ではビリヤードをやったことが無い奴という設定になった。

 

このバグース事件は自分の中で革命的な出来事だった。無理やりテンションを上げて楽しむうちに本当に楽しくなり、またコミュニケーションで人を助けることが出来た、ということだ。次第に店の雰囲気も良くなり、アルバイト同士で飲みに行ったり自分の個人情報を一切明かさないという謎のアルバイト美女と仲良くなったりした。この人のことは今でもたまに思い出すぐらい謎めいた個性的な人だった。

結果的にはいいことだらけだった。

 

夏前になりいよいよアルバイトを辞めなければならない、と店長に告げた時もこのバイト先を辞めたくない、と思ったのは初めてだった。そして店長に日本に戻った時はいつでも連絡してくれ。戻ってきてくれと言われたのも初めてだった。お世辞であっても最高に嬉しかったのを覚えている。

 

その後アパレルの管理部門に就職するのだが、お店の店長さんにシステムを教えるというまさにコミュニケーションが必要なポジションだったのだが、バグース事件のおかげでなんとか乗り切ることが出来た。また新人だった自分が仕事を教わるのにも随分と役に立ったのを覚えている。

 

仕事なんて会社と人との契約でしかないので、会社側がちゃんと1から10まで指示するのが当然だし、指示されていないことを期待するほうがおかしいと思う。今でもそう思っているがきちんと指導してくれたことは一度も無かった。現実は理想とはほど遠かったのを覚えている。

 

今でも歌舞伎町に行く度にあの時のメンバーは今どこでなにをしているんだろう、なんて思いながら酒を飲んでいます。